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スタジオジブリと「王と鳥」

映像愛好会


ジブリが好きなデザイナーです。昨日のYahoo!ニュースで「君たちはどう生きるか」が初放送されるという記事が出ていましたね!

たまにはファンらしく、ジブリに関連した作品を紹介しようと思います。「君たちはどう生きるか」と同じく、饒舌でちょっとうさんくさい鳥が登場する、1980年に公開されたフランスのアニメーション映画「王と鳥」です。

高畑勲監督、宮崎駿監督に大きな影響を与えた”ジブリの原点”として、三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーからDVDが発売されています。

古典アニメーション映画としても純粋に楽しめる映画なので、ぜひおすすめしたい作品です!

映画概要

監督:ポール・グリモー

脚本:ジャック・プレヴェール

公開:1980年

あらすじ

舞台は空高くそびえ立つ巨大な塔でできた架空の王国。
この国を支配するのは、自己中心的で残酷なシャルル5世+3世+8世です。

みんながこの傲慢な王様のご機嫌を取るなか、王様に妻を殺された鳥だけが彼を嘲笑します。

孤独な王様が唯一心を惹かれるのは、自分の秘密の部屋に飾っている絵の中の「羊飼いの娘」です。

しかしある夜、その「羊飼いの娘」は、自分の絵の斜向かいにある「煙突掃除の青年」と恋に落ち、絵から逃げ出してしまいます。

同じく絵から抜け出した肖像画の王様は、本物の王様となり替わって、兵士を使い二人を追いかけます。

ですが、鳥が二人の逃亡を手助けし、王国は混乱に陥ります。


脚本を書いたジャック・プレヴェールはフランスの国民的詩人であり、原作はアンデルセンの童話であるためキャラクターやモチーフは絵本のような世界観ですが、それぞれに社会的・政治的な寓意が込められているため、大人も楽しめるストーリーとなっています。

制作過程

高畑監督がアニメーションの道を志す動機を与えたこちらの映画ですが、公開年がさほど古くないことに気づかれましたでしょうか。

実は影響を与えたのは「王と鳥」の全身であり1952年に公開された「やぶにらみの暴君」という映画なのです。

複雑な事情があるこの両作品の制作過程を簡単に説明します。

もともとは戦後間もない1947年に、監督のポール・グリモーと脚本家ジャック・プレヴェールによって制作が開始されたのですが、なかなか完成しないまま4年が経ち、制作費も尽きてしまいます。そのためプロデューサーが二人の意に反して無理やり編集し公開してしまったのが、「やぶにらみの暴君」です。

その後、長い時間をかけてグリモーは作品の版権とネガを買い戻し、制作費を10年がかりで集め、高齢化してしまったスタッフの代わりに新しい若いスタッフで作り直したものが「王と鳥」なのです。

まさしく執念とも言える制作過程ですが、皮肉なことに両作を見た当時の批評家には、「王と鳥」より「やぶにらみの暴君」の優れているとされています。しかし、「やぶにらみの暴君」は版権を買ったグリモーの意思によって封印され、現在見ることができません。

ジブリ作品への影響

鑑賞して感じたジブリ作品との共通点は、視覚的な独創性と、子どもも大人も楽しめるテーマ性です。

視覚的な独創性

宮崎作品で印象に残るシーンはもちろん数えきれないほどありますが、ビジュアルとして強い力を持つカットは、”縦の構図”が多く用いられています。

シータが落ちてくるシーンや、サンが飛び降りるシーン、キキの飛行シーンなど、見上げたり見下ろしたりの構図は、迫力もインパクトもあってとても見応えがあります。

「王と鳥」でも、権力や孤独の象徴として王様の住む高い塔が象徴的に使われています。

そのため、塔を見下ろしたり見上げたりするカットも多いのですが、高さを強調するためにとても急角度なカメラワークになっています。絵本や挿絵にはない、アニメーションとしての強みを感じさせる構図で、とてもかっこいいんですよ。

子どもも大人も楽しめるテーマ性

ジブリ作品によく用いられるこの「子どもも大人も」の枕詞ですが、つまり表層も深層も楽しめるように、ストーリーとしての奥行きがあることを意味していると思います。

「王と鳥」も、独裁体制への批判や自由への逃避など、多くのテーマが複雑に秘められています。高畑監督が感銘を受けたのはこの「アニメーションが社会へ訴える力」であり、ジブリ作品へ受け継がれる特徴であるといえるでしょう。

個人的感想

本作の個人的おすすめポイントは、独特なユーモアのセンスです! あらすじにも書きましたが、「シャルル5世+3世+8世」って名前が面白いですよね。個人としての王が認められていないことを象徴しているとは思うのですが、クスッとしてしまう皮肉のセンスが抜群です。

高い塔へは鉄製の無骨なエレベーターで上がっていくのですが、各階の名前も面白いんです。「夏監獄」や「冬監獄」、「大人と子ども向けの徒刑場」など、上っていくにつれて王様の孤独感が増していくのですが、それもユーモアで楽しく飾られています。

あと、製作者の意図しているところではないかもしれませんが、王様がとても可哀想なんですよ。タイトルの通り王と鳥の対立が主軸であり、王様が権力、鳥が自由を表していると思うのですが、そのわりには王様にも愛嬌があって、逆に鳥は孤独な王を嘲笑するなど、こいつ性格悪いな…と感じてしまいます。

映画をご覧いただければ分かるのですが、宮崎監督作品である「カリオストロの城」は本作品へのオマージュが随所に現れています。高い塔に住む王様が無理やり少女と結婚しようとするなど、ストーリーにも類似が見られます。

なかでも、王様がボタンを押すと床がパカっと開いていつでも気に食わないやつを殺せる城の仕掛けはそのまま「カリオストロの城」にも受け継がれているのですが、個人的に感心するのは、宮崎監督は”落ちたあと”も書いているところです。

「王と鳥」では、偽物の王様がボタンを押して本物の王様を穴の中に落とし、そのあと何事もなかったように王様として振る舞うのですが、本物の王様がそのあとどうなったか、一切描かれないんです。すり替わっても誰も気づかれないところに王の孤独と個人が認められていないというのが現れていると思うのですが、それにしても王様が可哀想すぎる。

なので「カリオストロの城」では、穴に落ちたルパンが銭形警部と協力して穴から逃げ出すシーンは、ある意味では「王と鳥」の本物の王様もこうやってうまいこと生き延びていてくれてるんじゃないかと思わせてくれるのです。

最後に

ロボットのことやラストシーンの意味など、「王と鳥」は本当に奥深い作品なのでまだまだ書き足らないところなのですが、ネタバレも勿体無いので、やっぱりぜひ実際に観ていただいたい作品ですね! サブスクではU-NEXTでのみ視聴することができます。

少しでも面白そうだなと思っていただけたら幸いです!